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東郷雄二 『橄欖追放 [sai] 歌合始末記』 感想 「たんす」

橄欖追放 [sai] 歌合始末記 感想の注意書き(『短歌パラダイス』感想の注意書きとほぼ同様です)およびルールはこちらです。

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橄欖追放 [sai] 歌合始末記

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 第二戦目は「たんす」です。

 

人生の荷物を背負うこと思い、タンスかつげばタンスは重い (生沼義朗)

うかがって うすくわらっておりました

たんす ながもち どの子がほしい? (今橋愛)

 

 これは、一読して今橋愛の圧勝だな、と感じたのですが読み進めます。

 

 

人生の荷物を背負うこと思い、タンスかつげばタンスは重い  生沼義朗

 

 生沼の歌は、「人生の荷物」と「タンス」がほとんど直喩的に対比されていて、「思い」と「重い」で引っかけているのがわかります。ですが、まあ、何と言うか、駄洒落のつもりだったのかな?という感想しか出てこない…。解説にも

 

敵軍からは人生の荷物をたんすで象徴するのは陳腐だとか、「思い」「重い」の脚韻もうさんくさいだとかさんざん攻撃されていた。ちょっと反論しにくいのが気の毒である。自軍の東方の念人もほめあぐねている感があった。

 

とあり、何とも言えないですね。もし味方だったらどう褒めようか。やっぱり、「嫁入り道具」としての「箪笥」を思い起こさせるところでしょうか。箪笥一つで嫁いできて、また人生の荷物を背負う、という。ですが、まあそういった「女性の」生き方として読むのもちょっとやりすぎ感が否めないし、タンスかついだら重いでしょうね、としか…。すみません。

 

 

うかがって うすくわらっておりました

たんす ながもち どの子がほしい? (今橋愛)

 

 今橋の歌は、背筋が寒くなる感じです。この人の歌、ほんと、最初は

 

「水菜買いにきた」

三時間高速をとばしてこのへやに

みずな

かいに。

 

ってどんな短歌だよ、女子のポエムかよ、って全然ピンと来てなかったのですが、歌合でこうやってびしっと決めてくるところを見ると、只者じゃないな…、って気になります。『トリビュート×百人一首』の歌もよかったし、最初わけわかってなくてすみませんと謝りたいくらいです。

 それにしても、この歌の解説に

 

今橋のたんすの歌は、上句の主語が意図的に消去され、下句にわらべ歌を引用して、人気のない大きな日本家屋で座敷童が白昼に戯れているような不思議な印象を生み出している。

 

とあるのですが、下句はわらべ歌の引用?というのがよく分からず、「たんす ながもち どの子がほしい?」でググったら、関西では「はないちもんめ」の歌詞に「たんす ながもち どの子がほしい?」って一文があるそうで…。私、関西出身ではないので知りませんでした。今橋愛は大阪でしたね。

 それにしてもWikipediaをみると、「たんす ながもち どの子がほしい?」が正式な歌詞のようで驚きました。そうなんだー。全然知らなかった。じゃあこの短歌はある意味本歌取りというか、そういう感じの歌なんですね。

 

 

外つ国に嫁ぎ来しごとタワマンのフローリングに箪笥置かるる (yuifall)