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読書日記 2025年10月22-28日

2025年10月22-28日

奥田英朗『最悪』

奥田英朗『リバー』

吉田修一『逃亡小説集』

吉田修一『犯罪小説集』

奥田英朗『邪魔』上下

奥田英朗『無理』上下

吉田修一『ミス・サンシャイン』

 

以下コメント・ネタバレあり

奥田英朗『最悪』

 1999年の作品らしいです。99年といったらすでに平成10年?くらいですが、社会の描かれ方がすごい昔な感じでびっくりしました。こんなに違うものなのか。特に銀行員のみどりの状況が、銀行員3000人でキャンプとか父親が55歳で役職定年になる前に24歳以下の娘を嫁に行かせたいとか女性行員は基本出世できずお茶くみとか、驚くべき古臭さに慄きました。2000年前後でこんな感じなのか。主人公は3人いてそれぞれ悲惨なのですが、一番読んでて辛かったのは川谷のエピソードですね。第五次下請けくらいの町工場で、取引先との力関係は弱いし、近くに建ったマンション住民とは騒音の件で揉め、息子は大学生、娘は短大志望の高校生で金銭的に余裕がなく、色々あって銀行とも揉めて…という出口のない感じが…。みどりはまあ、この時代どんなに耐えてがんばったところで女が出世できるはずもなくそれなりの実家もあるしいざとなったら辞めればいいじゃん…誰か養ってるわけでもないし…と思ってしまい、和也はただの社会不適合者なので状況が悪化していってもあまり感情移入せず読めます。どこで3人の人生が交わるのかと思ったらかなり終盤で、奥田英朗はちょっとイカレたおじさんを描くのがうまいなぁと思った。おじさんの描写が好きなのかなという気がします。生き生きしてる。

 

奥田英朗『リバー』

 こういう小説好き。社会派のミステリで、舞台は2019年です。10年前に栃木と群馬で起きた連続殺人と同じ手口の殺人がまた栃木と群馬で相次いで起き、警察とかつての事件に関わっていた警察OB、マスコミ、過去の被害者家族の3者が犯人を追います。警察がマークしているのは3人で、10年前の事件の最有力容疑者の池田、地元の有力者の息子で夜な夜な車で徘徊する引きこもりの平塚、10年前も同じ場所で同じ仕事をしていた期間工刈谷。読者には割と序盤から刈谷が犯人と分かるような話の作りになっていて、警察も徐々に刈谷を本命と定め追うのですが、他の2人もマークしたままの状態で進行します。真犯人を追う警察に、真犯人はどうせ刈谷だろうと思いながらまあ社会派ミステリだし派手などんでん返しはないだろうという気持ちとでもどんでん返しがあってほしいという気持ちで読んでいると、最後意外な真相に驚きます。あと幕切れのあっけなさにもかなり驚きます。スピード感があり面白すぎて一日で一気読みしましたが、最後ええっ??これで終わり??ってなったのは否めない。まあこういうのはだらだら書くよりも盛り上がったところですぱっと終わった方がいいのかもしれませんが。

 平塚は解離性人格障害ってことになってるけど私はあれ全体が詐病だと思ってます。マコトだって嘘だろ。多重人格が出てくるミステリが好きじゃないってのもありますけど、ラストあたりで他の人格が全てマコトの演技だったと篠田にバラされたあたりで、マコト自体も演技だったと思った。はっきり書いてないけど、要は裁判に向けて多重人格のふりしてたってことでしょ?

 

吉田修一『逃亡小説集』

 実際の事件をモデルにしたらしい短編集。といっても私は世事に疎いし結構前の事件なのであまりピンときませんでしたが、最初の九州男児の話が一番面白かったかなぁ。それにしてもどれも短編でそれぞれの小説はかなり短いのですが(だいたい1話10分くらいで読めるボリューム感)、登場人物の過去を含め背景の書き込みがすごくて圧倒されます。短編でこんな高カロリーなのか。作家ってすごいですね。自分の中にどれくらい世界があるんだろう。

 

吉田修一『犯罪小説集』

「楽園」という映画の原作らしいですが、『逃亡小説集』と同様、実在の事件をモデルにしたっぽい短編集です。大王製紙のやつはなんとなく記憶にある…。この主人公、大富豪で家族仲はよくまっとうに育てられ、同じくらいの生活レベルの友達と仲良くなり、色んな女の子と遊びながらもアフリカ難民支援をしている女性を妻に選び、まっとうな人生を送ってきたのにどうしてこうなっちゃうんでしょうね。結局生まれ持った何かなのだろうか。最後の野球選手の話は伊坂幸太郎『あるキング』にも似ていて、同じ事件をモデルにしているのかなぁと思った。

 

奥田英朗『邪魔』上下

『最悪』と同じ、漢字2文字シリーズみたいです。恭子の話が面白いというか、桐野夏生みある。OUTみたいな。それにしても残された子供たちがかわいそうでやりきれないものがあります。普通に父親が業務上横領もしくは放火を自首してれば済んだのに。両親が放火犯で父親逮捕、母親失踪じゃ全然人生の難易度変わるじゃん…。恭子はずっと人任せの人生を歩んできて、ここからは自分の足で立っていかなければならないと決意したところでとんでもないことをやらかすわけなのですが、この現場を九野が目撃するシーンが切なくて涙が出ました。

 

 恭子はセーターを脱ぎ、身体の汗を拭っていた。暗がりの中、遠くからでもその肌の柔らかさが想像できた。

 女の孤独を思った。早苗にもこんな夜があったのだろうか。いや、ないはずだ。そう信じたい。自分は早苗を一人にはしなかった。ずっとずっと愛してきた。

 誕生日には花を贈った。休日には映画に誘った。髪型を変えれば似合うよと褒めた。二人で愛を確かめ合ってきた。

 恭子にそんな日々はなかったのだろうか。子供が生まれたとき、ちゃんと労わってもらったのか。家を買ったとき、君のおかげだよと感謝されたのか。いや、そんな表面的なことはどうでもいい。あの男は恭子を守らなかった。それどころか、平凡な主婦をここまで追いつめてしまった。目の前の恭子の姿が、それを証明している。

 

 この場面。男の人は女をこんな風に愛するのかと思って切なかったです。そして女は男に愛されていれば幸せと信じる九野の、あるいは男性のナイーブさが悲しかった。どれほど愛されてもどうにもならない孤独の夜はあるし、それは男性も同じでしょ?

 

奥田英朗『無理』上下

 ミステリじゃないので仕方ないのですが、こんな終わり方…。『最悪』『邪魔』以上になんじゃこりゃと思った。『邪魔』が私は一番カタルシスを感じましたが、口コミ感想見てみると一番評価が微妙っぽい。『無理』は他の2つ以上のオープンエンディングで、あの交差点で激突した後登場人物たちがどうなるのか全然想像できません。とりあえず何の非もない女子高生が一番かわいそうで、次は宗教にハマってたパート女性が気の毒。不良公務員と殺人議員、詐欺師はまあどうでもいいかな…。

 

吉田修一『ミス・サンシャイン』

 芸能界に生きる人間の一代記という点で『国宝』と似てもいるような、恋愛小説なのかな。引退した80代の女優、石田鈴のもとで働くことになった大学院生が主人公で、2人の心の交流が描かれます。最後、主人公が鈴さんに告白めいたことをして2人の関係は終わってしまうのですが、この時の鈴さんはどういう気持ちだったのだろうと考えます。私は正直ちょっとやだったんだよね。だってもし同年代だったら会うこともできなかった、全く重ならない世界に生きる銀幕のスターじゃないですか。それを、80代になったからって対等な恋愛相手として見るのおかしくない?年取った女はどんなに格下でも若い男からの愛情をありがたがらなきゃいけないのか?敬意とか人間としての好意とかそういう感情を抱くのはもちろんいいとして、恋みたいな感情をほのめかされるのは侮辱だと私は感じてしまいました。そして多分そんな風に受け取られるような書き方をしてるとも思った。主人公が告白前にする妄想のシーン、「僕が告白して手を取ると鈴さんは『こんな年取った手恥ずかしい』と言い、僕が『そんなことない』と言う」みたいな場面、結局自分の持つたった一つのアドバンテージである若さによって、大女優にも上から目線で行けることに酔ってるとしか思えなかった。若さってそんな万能薬じゃないし、正直言って若い人が思っているほどには年寄りは若さに価値を感じてないと思う。鈴さんは実際にはそんなリアクションはしないわけだし。鈴さんはどう感じて、どうして会わなくなったんだろうな。私と同じような感じ方じゃなく、もしかしたら、こういう勘違いをされるなら距離を置いた方がいいと思っただけかもしれないけど。

 でも全体的にはとても素敵な話でした。鈴さんと彼女の若いころの親友とのエピソードがとても悲しくて、亡くなるシーン泣きました。それにしても吉田修一は本当に生きてる人を描くみたいに人を描写するよなぁと毎回読むたびに新鮮に驚きます。