2025年7月16-22日
・ケイト・クイン(加藤洋子訳)『狙撃手ミラの告白』
・C・J・ボックス(野口百合子)『発火点』
・切江真琴『隠してるつもりの、かわいいひと』
・伊達きよ『もう好きって言っていい?』
・尾上与一『彩雲の城』
・伊坂幸太郎『SOSの猿』
・王谷晶『ババヤガの夜』
以下コメント・ネタバレあり
・ケイト・クイン(加藤洋子訳)『狙撃手ミラの告白』
ケイト・クインの作品で今のところ買えるものは全部買ったのですが、読むのはこれが最後です。これは実在のロシア人狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの人生をモデルにしたフィクションです。今までの作品はどれもシスターフッドものでしたが、これは主人公が単独です。途中でイケメン数人が主人公を取り合う的な展開になり退屈とまでは言わないけどシスターフッドものの方が読んでて楽しいなーとは思いました。アメリカ訪問のくだりなどちょっと盛りすぎでは、と思いましたが多くが事実(というか回顧録)に基づいているらしく、じゃあ仕方ないかーと。でもアメリカ大統領を救う!って展開になるとどうしてもジャック・バウアーが頭をちらついてB級感が出るのは否めない。戦場における心理描写とかさすがケイト・クインと思ったシーンも多かったのですが、面白さとしては他の作品の方が上かなぁ。個人的には『ローズ・コード』『亡国のハントレス』『戦場のアリス』の順に好きで、『狙撃手ミラの告白』と『不死鳥は夜に羽ばたく』は同じくらい。
ソ連の女性狙撃手ものというと『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)が思い浮かび、実際感想を読んでみるとよく引き合いにされていますが、私は『同志少女よ、敵を撃て』についてはあまり評価していないし比べ物にならないのではないかと思う。そもそもテーマが全然違うと思うし…。ケイト・クインの小説は女性が共感できるように書かれていますが、『同志少女~』はあくまで男から見た女という感じで理解に苦しむ。『同志少女~』の感想については以前書いたので詳しくは繰り返しませんが、テーマと主人公のキャラ設定が全く合ってなくて不満すぎたし正直これラノベだよね。ケイト・クインの小説には女性同性愛者も登場しますが、これは『同志少女~』のGLとは全然違うと思う。シスターフッドもののフィクションに女性同性愛者を登場させてもいいのは異性愛者の女が描ける作者に限られると私は思うよ(もちろん作者がLGBTQ当事者の場合はこの限りではないですが)。女が女を好きで女と分かり合えるの当たり前だもん。男と心を通わせられる女を描けない作者がシスターフッドから安易に女性同性愛に向かうのは不快感がある。強く自立した女は男を必要とせず主体的であり、男に愛されるのではなく女を愛するのだ、という暗黙のステレオタイプを感じるからです。その点ケイト・クインは男を愛する強い女の描写がうまいし、また女と心を通わせることができる男とそうでない男がいずれも登場するのでリアリティがあります。とにかくキャラクターが魅力的だし。次回作の構想もあるみたいなので楽しみに待ちたいと思います。
しかし、このシリーズ、訳が時々気になるんだよな…。「そうは問屋が卸さない」とか26歳女性のモノローグに登場する語彙ではなくない?
・C・J・ボックス(野口百合子)『発火点』
電子書籍サイトで買えるものの中ではシリーズ最初の本だったのですが、どうも出版社が講談社に代わってからの1冊目だったようで、シリーズものの途中すぎてなんだかよくわかんなかった。事件が起こって犯人がすぐに特定されるのですがどうせこいつ犯人じゃないだろーと思って案の定そうだし、その途中で色々事件が起こるのですがなんかミステリというよりもあー、アメリカってこうだよね…、みたいな感じだった。なんかよく分かんない難癖付けられて正しさよりも声デカが勝ったり、全然関係ない議論の最中に突然「私が有色人種だからそういう態度なんだ!人種差別!」とかキレ出したり、未成年が簡単に銃に手を出せる環境だったり、環境保護という名目で何でもかんでも規制してやたら罰金かけたり、容疑がかかったら証拠も逮捕も裁判もなくいきなりミサイル打ち込んだり、正直保守もリベラルも極端すぎるアメリカにうんざりしてるし昔は留学とか憧れたけど今は全然憧れない。その憧れない要素がてんこ盛りで、アメリカのすることっぽいわー、鬱陶しいわー、みたいな感じがすごかったです。ある意味リアルなのかもしれない。人気シリーズみたいですが、読んでて疲れてしまった。
・切江真琴『隠してるつもりの、かわいいひと』
・伊達きよ『もう好きって言っていい?』
いずれも商業BLですが退屈極まりなくて文字が脳を素通りした。とりあえず最後までページめくって一瞬で終わった。つまらなさすぎた。
・尾上与一『彩雲の城』
1945シリーズで、これも商業BLです。このシリーズ、テーマは重いんですが『蒼穹のローレライ』以外はなんやかんやハッピーエンドなので緊張感がなくなってきた。みんなラバウルにいて空飛んでてだいたい展開も同じだし。上の2冊に比べたら設定も筆力も段違いですが、シリーズ似たような展開なので飽きました。『蒼穹のローレライ』と『天球儀の海』だけ毛色が違ってて好きです。
これはつまんねー。舞城王太郎は『煙か土か食い物』が圧倒的に面白かったですが、あとはどれもそんな面白くないな。最初のエログロだけで食傷気味というか、エロとかグロとかつまんないんですよ。だいたいどれも同じだし。まあ二次小説らしいのでそもそもの設定がよく分かってないのもありますが、内輪ネタすぎて全然面白くなかったです。ただ、よくこのノリでこの長さの小説書けるなー、とは思いました。こういう文章書けたら楽しいだろうなと。皮肉とかじゃなく本気で、意味分からんシュールな文章って書けないのでとても羨ましく思います。
・伊坂幸太郎『SOSの猿』
久しぶりの伊坂幸太郎ですが、これもシュール系でちょっと疲れた。というか伊坂幸太郎は基本読んでて疲れるんですが読んじゃうんだよなー。一定のクオリティが確保されているので安心して読めるというのはある。しかし以前柚木麻子『BUTTER』の感想で柚木麻子の作品は作者の言いたいことが透けて見えるから微妙って書いたけど、伊坂幸太郎の小説もわりと透けて見える気がするが嫌じゃないな。これはなぜだろう。やっぱ「女はつらいよ」を押し付けられんのが嫌なのかも。もちろん同様に男作者の「男はつらいよ」もめんどいなと思いますが、伊坂幸太郎は「男はつらいよ」やんないもんな。
・王谷晶『ババヤガの夜』
王谷晶は『探偵小説には向かない探偵』が好きで、いつか作家買いしようと思いながらも『ババヤガの夜』も『完璧じゃない、あたしたち』もシスターフッドものかぁ…とちょっと敬遠していたのですが(『探偵小説には向かない探偵』は主人公男性の探偵もの)、ダガー賞獲ったということで買ってみました。とても面白かったです。変な話、すごい強い女が出てきて力でぶちかますのってスカッとするよね。「女はつらいよ」でうじうじやってねえでかましたれ!ってなる。で、華奢なお嬢様出てきてボディガードになって、あーどうせこれ環境も外見も正反対の2人、お嬢様とゴリラ女が徐々に心を通わせてみたいなやつっしょ…と思ってたら全然裏切られます。というかまあ骨子はそうなんだけど、それだけじゃ終わらないというか。あと最後まで百合っぽい展開にならないとこもよい。シスターフッドものがそのままGLになると萎える派なんで…(男性だってバディものがそのままBLになったら萎えませんか?そうじゃねえよってならん?)。個人的にはインテリ萌えなので柳と依子の組み合わせ好きでしたが、これは別にカプ厨ではなく恋愛感情ゼロの男女バディが好きだからです(*小説内では別にバディじゃないです。念のため)。続けて王谷晶買ってみます。