いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

読書日記 2025年3月5-18日

2025年3月5-18日

2週間分まとめます。

・S・J・ローザン(直良和美訳)『その罪は描けない』

有栖川有栖『砂男』

・アンソロジー有栖川有栖に捧げる七つの謎』

・アンソロジー『あなたも名探偵』

桜庭一樹『名探偵の有害性』

 

以下コメント・ネタバレあり

・S・J・ローザン(直良和美訳)『その罪は描けない』

 リディア&ビルの私立探偵シリーズで、私にとっては初のビルが主役編でした。こっちはまさに正統派ハードボイルド、私立探偵ものという趣です。追う事件もシリアルキラー関連だし、酒と煙草とセックスとアートと殺人の世界でした。とはいえ依頼人も結末も一風変わっていて楽しめます。ただ個人的にはリディアが主役のシリーズの方が好きかな。中国人社会の内情が垣間見えて面白いです。

 

有栖川有栖『砂男』

 これは未収録の短編集でした。「推理研vsパズル研」と「ミステリ作家とその弟子」は何かのアンソロジーで読んだことがあったので他を読みました。江神シリーズと火村シリーズが一つの本に入っててなんか面白かったです。江神シリーズはいつまでも90年前後の大学生なのに火村シリーズはどんどん現代になってしまって…。「海より深い川」はオチに関わるある法律改正前の2人ですが、『捜査線上の夕映え』はコロナ禍だもんなぁ。というか『46番目の密室』では「皇太子殿下(今の天皇陛下)と同い年」とか言ってたような気がするけど…(この時32歳の設定)。江神シリーズの完成度がとても好きなので、完結を見たいなーとずっと思ってます。あとこの「女か猫か」ではアリスがマリア大好きでとても萌えました。やっぱ有栖川作品はキャラがいいよなぁと思う。「海より深い川」でも火村の発言がいちいち、この人こういうこと言うよね!と心を掴まれます。

 

・アンソロジー有栖川有栖に捧げる七つの謎』

 これ面白すぎん?オタク心がくすぐられまくる本でした。新進気鋭の作家が有栖川作品のトリビュート(パスティーシュ)をするという企画もので、神作品と分かってる二次創作じゃん…と読む前からワクワクが止まらなかったです。Pixivで神と崇めている作家さんの新作が出た時のときめきみたいな感じです。実際読む時も二次小説的な読み方で舐めるように読みました笑。

 面白すぎたので個別レビューする。

 

「縄、綱、ロープ」(青崎有吾)

 青崎有吾はパズル、トリックの点ではここ最近読んだミステリ作家の中で抜群にうまい人で、個人的には百合ラノベっぽいキャラとストーリーが苦手だったのですが、そこを火村&アリスで書いてくれるなら読む前から最高なの分かり切ってるじゃん…!と思って読み始め最初から最後までマジで最高でした。パズル、トリック的面白さもそうなんですが、ガチの完コピ二次でした。これ有栖川作品だろ、って空気がすごすぎた。この面白さどうすれば伝わるのかなぁ。Pixivなら「野生の公式」タグがつく感じです(野生じゃないけど)。オチまで有栖川テイスト効いてて、有栖川有栖が書いている「あとがき」では

 

青崎さんは原稿依頼を引き受けるにあたって火村シリーズを即座に選び、「個を出すのはやめて、完コピ二次創作に徹しよう」と直感的に決めたのだそうです。

 

とあり、青崎有吾本人も有栖川有栖も完コピ二次と認める出来栄えです。ファンの人絶対読んでほしい…。

 

「クローズド・クローズ」(一穂ミチ

 一穂ミチはBLテイスト消すためか真野さんを出してきて舞台も女子高でバランスいいと思いました。火村とアリスのやり取りがご本尊と比較して圧倒的に若い…。現代の34歳って感じです。「あとがき」では有栖川有栖本人も、自分が書く2人より若いと書いています。面白かったんですが一点だけ気になったのが、なぜ三人称にしたのだろうか…。別に一人称でもよかった気がするのですが。

 どうでもいいことですが一穂ミチは大阪出身なんですね。この関西弁はネイティブかぁ、と思ってそれもなんか面白かったです。あと超個人的な喜びポイントがあり叫びそうになりました。どうもありがとうございます。

 

「火村英生に捧げる怪談」(織守きょうや)

 個人的にはこれが一番イマイチだったのですが、何度も書いているように私にホラーリテラシーがないからかもしれない。アリスの鉄オタネタやマジックミラーネタなど入れこんできて有栖川作品のファンであることは感じ取れたのですが、怪談を謎解きする要素にあんまり驚きがなかったです。まぁ、でも、そういう肩透かし感も有栖川作品でよくあるといえばある。

 

「ブラックミラー」(白井智之)

 白井智之は『エレファントヘッド』のイキった感じがあんま好きじゃなかったのですが、これは抜群に面白かったです。文章に疾走感があるし、ネタも作者の趣味を感じさせつつも悪趣味までは堕ちておらず、『マジックミラー』に火村を混ぜてきた構造も好きでした。第三者目線の火村の描写が面白すぎたし。「外資の商社マンという感じで、海外のセレブみたいなチャラいジャケットを着ている。SNSでサウナの感想をつぶやきながらグラビアアイドルの自撮りにいいねしていそうな男だった」なんて描写は私には絶対できないよ…。あと火村の発言、「俺は病気だな。真顔で的外れな浅知恵を披露してくる相棒がいないとものを考えられない体になっちまったようだ」「俺は友人のありがたさを噛み締めていたところさ」など、アリスが登場しなくても匂わせてくるとこ読者の心くすぐってくるなぁ、と嬉しい気持ちになりました。序盤に主人公と友人がミステリ談義をするシーンがあるのですが、実在の作家ではなく赤星楽、空知雅也、真壁聖一、高橋風子、朝井小夜子など有栖川作品の架空の作家たちが登場するのもぐっと来た。このアンソロジーの中では青崎有吾と同じくらい好きな作品です。

 

有栖川有栖嫌いの謎」(夕木春央)

『方舟』の人ですね。主人公は作者自身で、現実を舞台にしたストーリーでした。一風変わった設定で面白かったです。ドラマ「火村英生の推理」の話も出てきたりして(でもこのドラマ微妙だったよなー。キャストはよかったのにストーリーがさぁ…。アリスが女にされなかっただけマシくらいなレベル)。作者が有栖川有栖にメタなメッセージ送ってるシーンとか笑えた。私も学生アリスの長編五作目読みたいです!

 

「山伏地蔵坊の狼狽」(阿津川辰海)

「山伏地蔵坊」の元ネタ読んだことあるはずなのですが忘れてしまっていて、なので元ネタ分かんない二次創作読んでる感でこれは作者に申し訳なかったです。『ブラジル蝶の謎』は覚えてました。しかし、語り手に若者がツッコミまくったり、「ブラックミラー」でも思ったけど途中でググられたりして、探偵と聞き手の距離感も昔と今とじゃえらい違うよなぁと感じて面白かったです。普通に人の話聞きながら真偽を調べたり、こいつ何者?ってSNS覗いたり、リアルタイムの情報量が全然違いますもんね。現代を舞台にした意味が二重写しになっていて面白いと思いました。

 

「型取られた死体は語る」(今村昌弘)

 あのゾンビものの人です。江神シリーズですが、舞台が現代じゃん!いきなりスマホじゃん!ってびっくりした。江神シリーズは永遠に89年な気がしてたので…。これはこういう企画でないとできない作品で、いわゆる現パロ的な面白さがありました。徐々に分かってくる男女の痴情のもつれや謎そのものは江神さんが解くんだけどそこにアリスが情緒的な意味を与える流れ、多分そうなんだろうけどどことなくすっきりしないような割り切れないオチなど、これも完コピ感は強かったです。「女か猫か」に似てるような。

 

 存在を知ってからしばらく買わずにいて、買ってからもしばらく積んでいたのですがその時間がもったいなかったほど面白かったです。有栖川有栖ファンにぜひ読んでほしい!話が面白いのみならず、こんな有名作家の皆さんと同じ界隈にいる同志気分が味わえてそれもお得でした。

 

・アンソロジー『あなたも名探偵』

 これは犯人当てアンソロです。米澤穂信が入ってたので買ったのですが、「伯林あげぱんの謎」は読んだことあったなぁ。どの小説も途中で「読者への挑戦状」が入り、ここまでの情報で謎解きできますよという作りになっているのですが、脳が疲れているので全然謎解きしないで読みました(まあ、絶好調でもしていたかどうかは怪しいところですが)。個人的には「アリバイのある容疑者たち」(東川篤哉)がシンプルで面白いと思いました。『謎解きはディナーのあとで』の人か!白井智之はさぁ、これは『エレファントヘッド』テイストで私はダメだった。どうしてイキった感じのエログロなのか。というか、エログロは作者の趣味だと思うんですけど、あくまで個人的な感じ方の話ですが、例えば同じエログロでも平山夢明沼正三には感じないウザさを白井智之に感じるのはなぜなのだろうと思うのですが分からん。他作品は、これシリーズものの単話なのかなぁ…ってとこで気が散って集中できなかった。なんか全体的にキャラが濃いんですよ。

 

桜庭一樹『名探偵の有害性』

 名探偵がかつてエンタメ界でもてはやされていたという設定のパラレルワールドで、ポリコレによるパラダイムシフトが起きた現在その有害性が告発されているという話です。現実でいうと平成初期に輝いてた芸能人たちが今同じことをするとその素行が問題になったりとか、そういう感じなのかな。主人公はかつて名探偵の助手だった50歳女性です。恋愛関係にならない男女バディが好きなので、名探偵とこの助手の関係(若かったころも、中年になってからの今も両方)にときめきながら読みました。名探偵の方はTV収録で知り合った有名女優にぞっこん惚れて結婚してたりして、そこもまたタレントっぽい。

 個人的な感じ方だと、昔のTVとかのノリがずっと嫌いだったので(当然当時の人気芸能人も当時から好きじゃなかった)、今のポリコレ社会の方が生きやすいです。昔は女子供には人権なかったし、いじり(という名のいじめ)や飲酒喫煙、セクハラパワハラが横行していて、それが「おおらか」という言葉で全部許されてたけどそういう社会は見てるだけでしんどかった。このストーリーに出てくる「名探偵」はそこまで尖った存在ではないですが、かつてエンタメのために信念を曲げざるを得ない場面があったり、何十年も経って何が真実だったのか分からなくなっていたり、色々な理由で難しい立場に立たされるし精神的にも葛藤します。

 ずっと、今のポリコレが息苦しいという意見を聞くと不思議に思ってたんです。この人はいじる側、セクハラパワハラする側、搾取していた側の人間だったのだろうかと。そんな人たちなんてごく一部だと思ってたから。でもこれ読んで、それはちょっと違うのかなと感じました。つまり、「搾取する側の人」だったわけじゃなくて、その場の雰囲気でそうならざるを得ない場面があったり、自分がいじめられる側にならないためにそうせざるを得ない場面があったり、そういう時代を生きてきてそのことをある程度忘れてきた今になってそれを突き付けられているのかもしれない。だからしんどいと思うのかもしれない。私自身も、忘れてしまっていることも覚えていることもありますが、今のポリコレや常識に合わない言動をして人を傷つけたかもしれない過去があります。それを今突きつけられたら、やっぱりしんどいし申し訳ないと思う。

 

 しかし、そういう「正しさ」問題とはまた別のところで、人っていつまで「何者になりたい」と思いながら生きていくのだろう、それもまたきついなと思った。

 

きらきらと空眩しくて選ばれし我と思いし日々も過ぎにき (谷岡亜紀)

 

という短歌がかつて、若かったころ、とても好きでした。二十歳前後のときすでに、「選ばれし我と思いし日々も過ぎにき」と思っていた。「選ばれし我」という感覚は、思春期の自意識にしか許されないものだと思っていました。でも今思えば、20代なんてまだそんなこと考えてていい時期だよなと思う。そういう感覚って歳取っていくにつれて「まだ若いな」と感じる年齢も上がっていって、いくつになってもそう感じていいんだと思ったりする。でもその一方で、いつまでも「選ばれし我」かもしれないと思って生きてくのきついよなぁとも思うんですよね。そんな自意識はさっさと捨てて楽になりたいと思う自分もいるんだよな。

 まあそんなことごちゃごちゃと考えたりしました。桜庭一樹の小説はいつも面白いですね。精神に刺さるよ。