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読書日記 2026年6月17-23日

2026年6月17-23日

・施叔青(池上貞子訳)『台湾文学コレクション2 風の前の塵』

・ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰訳)『銃・病原菌・鉄』上下

・アンソロジー『それでもまた誰かを好きになる~うまくいかない恋アンソロジー~』

・長嶋有『佐渡の三人』

・安部公房『笑う月』

 

以下コメント・ネタバレあり

・施叔青(池上貞子訳)『台湾文学コレクション2 風の前の塵』

 台湾文学コレクションの2巻。うーーん。面白いかと言われるとあんま面白くないですが、興味深くはありました。主人公は1940年前半に生まれた女性で、正確な生まれ年や父親はよく分かりません。かつて母親が暮らしており自分もそこで産まれたと思われる台湾から、亡き母に会いに人々が訪れたことをきっかけに、自分のルーツを探す旅に出る…という話ではありますが、メインは主人公の母親の話ですかね。しかしまず説明が多すぎて、いつまでたっても導入を読んでいる気分のまま最後まで行ってしまい…。日本による台湾統治、当時の台湾の少数民族、彼らの伝統と暮らしぶりや日本による征服、戦時中の“着るプロパガンダ”……等々、とにかく説明が多いです。しかもストーリーの合間合間に入って来るのでいつまでたっても話が進んでいる感じがしない。。。あと、視点や描写される時代がしょっちゅう変わるので、まあそれ自体は小説の1つのテクニックとしてありだとは思うんですが、読みにくい。回想シーンはまだ登場人物の年齢などで年代が何となく分かるけど、現代パートがね、主人公がどこで何やってんのかよく分からなくなります。今何してたっけ?日本?台湾?と混乱する。それに、最後全然カタルシスがなかったのもしんどかった。結局主人公のルーツはよく分かんないし(母はやむにやまれぬ事情で2人の男性と同時期に関係をもつので、2人のうちどちらが父親なのかorどちらでもないのかよく分からんうえにその状況をおそらく主人公は最後まで知らないまま終わってる)、仲良くなった台湾人?女性からは突然「真珠湾を忘れるな」とかいうメール送り付けられた挙げ句音信不通になるし、最後の最後は“戦争は美しい”とかいう主人公の思想とは全く関係ないプロパガンダで締められるという…。

 なんていうか、日本人は単純に「台湾は親日国」「日本統治時代に建てられたものは素晴らしかった」などと美化するけど、実際には日本を好きな人も嫌いな人もいて、日本人だって傲慢なふるまいをした人もそうでもなかった人もいたのだろうという事実は分かるし、戦争が終わったからって水に流そうとならないのも分かるんだけど、それにしても主人公が戦争と関係なさ過ぎて途中の展開と結びつかない。ただしそういう台湾の内部から出た声、特に当時の原住民(少数民族)について書かれたものって今まで読んだことがなかったのでその点はとても興味深かったし、あと戦争もののノンフィクションを今までいくつか読んだけど“着るプロパガンダ”については全く知らなかったので、こういう風に多方面から歴史を見るのは面白いなと思いました。当時のファッションなんて、「国民服」を強要されてパーマ禁止になった話とかそんくらいしかよく知らなかったので…。

 

・ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰訳)『銃・病原菌・鉄』上下

 人類総説本などによく引用されている往年の名作です。朝日新聞かなんかの2000年代のベスト本1位に選ばれたとか。それから30年近く経っているので若干事実と異なる内容もあるみたいですが(人類の広がり方の解析などは言語学をベースにしたものよりものちに出てきたDNA解析で更に正確さを増したらしいです)、「今の世界がこうなっているのは人種に優劣があったからではない」ということを説明したエポックメイキングな名作だったとか。確かにその論点は非常に面白いし説得力があります。ただし内容は「銃・病原菌・鉄」というよりも、「食料(農業)・家畜・言語」という感じです。植物の話が長すぎてしんどい。。。というより、最初に総論が語られて次に各論に移るので、各論ではすでに総論で確認したことをそれぞれの地域に当てはめて語るみたいな感じで非常に繰り返しのテキストが多く、それはもう分かってるし……、という気持ちになって後半にかけて読むペースがガタ落ちしてしまいました。

 しかしながら、のちの『サピエンス全史』(ハラリ)ではあまり触れられていなかった西洋社会以外の発展や、中国でなぜ産業革命が起こらなかったかなど、多彩な大陸、人種、文化の観点から論じられており大変興味深いとは思いました。まー私はもともとIQとか信じてないし人種の優劣も信じてないので、驚くというよりも共感できる部分が多かったです。でも国民性みたいなのはやっぱり違うのではと思っててそういうのには興味があります。それこそIQとか、ルース・ベネディクトも「東アジア人(日本人、中国人、韓国人など)はテストに真面目に取り組む傾向があるけどアフリカ系、南アメリカ系の人はそうじゃないから比較できない」って書いてたような。つまりIQテストなんてものは、自分に何ら利益がないのに他人が作った問題を真面目に解いてジャッジされることに疑問を抱かず取り組めるという特性を持った人しか測定できないわけで、個人としてはともかく国民別のIQの傾向としては権威に対する従順さの有無が最も結果に寄与するのではという気がする。だからIQ高い国ではまあ比較的治安はいい可能性が高いと言えるのかもしれないですが、それ以外の点で優れているかどうかは分からんよね。一体何が国民性を決めるんでしょうね。やっぱ気候なのかなぁ。確かに暖かくて食糧豊富な場所で暮らしてたら、多少家とか仕事なくても死なないなーという楽天的な気持ちにもなれるのかもしれない。

 内容は多分今となってはそれほど新規性はないですが(30年前の著作なので当たり前ですけど…)、今でも普遍的に理解できると思います。

 

・アンソロジー『それでもまた誰かを好きになる~うまくいかない恋アンソロジー~』

 一穂ミチ「感情旅行」、朝比奈あすか「出会い」がよかったです。次点で千加野あい「振りかぶって、さよなら」と砂村かいり「オレンジシャドウの憂鬱」かな。こざわたまこ「さみしがりやの恐竜たち」と田中兆子「不機嫌依存症」は可もなく不可もなくで、麻布競馬場「独身の女王」とカツセマサヒコ「となりの独り」はつまんなった。どうも雑誌『CLASSY』に連載されていたものらしいので主人公が女性が多いのは仕方ないのかーと思ったけどもっと男性主人公の作品も読んでみたかったな。「感情旅行」は主人公が受け取る側から与える側になる自立と、同棲中の恋人と向き合う決意の前向きさが最後に残り、それに至るまでの過程も含めてとてもよかった。「出会い」はストーリー自体はなんてことないんだけど主人公の背景や心情が丁寧に書き込まれていてかといって説明的過ぎず共感できてよかったです。「振りかぶって、さよなら」は「出会い」の主人公が一歩踏み出した版かな。これも背景や心情、相手の男性の描写がよかった。まあこの相手の男性がどんなつもりなのかは全く分からんけど…。「オレンジシャドウの憂鬱」はもうアパレル系全開の話なので全然別世界ですが面白かったです。主人公の空回りも笑えるし、この男最悪じゃん、別れてよかったねーと思った。あとやっぱ年下は無理ある笑。「さみしがりやの恐竜たち」はある意味信用できない語り手もので面白いですが、相手の男性との間に特に何も成立してないのに急にキレ出してちょっと…って感じでした。「となりの独り」もそうだけど、「さびしいさびしい」って話苦手なんだな…。「不機嫌依存症」はまあ、あるあるなのかな。こういう人いるよねーみたいな。まあ笑えました。「独身の女王」は説明臭すぎるしキャラクターもテンプレすぎて話がのっぺりしすぎてる。「感情旅行」の次に配置されてるので作家の力量の差がエグいなーアンソロジーって残酷やなーと思ってしまったよ。「となりの独り」は男性主人公でしたが、あまりにも幼稚で35歳とは思えず共感もクソもないわ。こいつに寂しいとか言われても…。そりゃおっさんになっていつまでも大学生のままじゃ周囲と合わず寂しいのは当たり前すぎて同情の余地なし。子持ちが友達とUSJに行かないのは“子供のための場所になった”から行きたくても行けないんじゃなく、子供を置いてお前と行ってもつまらんからだわ。相手の女性も「私にも全く同じことが起きて」とか言っててこんな共感性低い女おる?無理すぎ。こんな女と誰がUSJ行きたいん?つかこんな女が中年になって男含むリア友とUSJ行きたがるか?中途半端にポリコレかましてますがそのせいで相手の女性のキャラクターがブレブレになってて意味不明でした。

 全体としては、あんまり知らない作家さんが多かったけど結構楽しめました。アンソロジーって楽しいですね。

 

・長嶋有『佐渡の三人』

 これは私小説であるということを事前に知っていたので主人公=作者、という先入観で読んでしまった。書かれている内容は大部分が事実なのだそうですが、確かに親族同士や家族、兄弟など同じルーツで同じ時間を一緒に過ごした人間にしか分からない“内輪ネタ”ってあるよなぁと思った。そしてその“内輪ネタ”を誰にでも読める形で小説にできる作家ってすごいなぁと思った。これ読んで自分も自分の家族について考えて、確かにけっこうユニークな親族がいるといえばいるのですが、こんな小説になるほどエピソード書けないもんなー。しかし実際の長嶋さんは幼少期を離婚した母と一緒に北海道で過ごしているそうなので、もしかしたら父方の親族とは幼少期に若干の距離があったからこそ書けたのかもしれません。

 

・安部公房『笑う月』

 短篇集です。「藤野君のこと」「蓄音機」「ワラゲン考」「アリスのカメラ」「自己犠牲」「空飛ぶ男」「鞄」あたりが面白かったです。特になんか昭和初期の猥雑で残酷な感じがする短編が好きでした。これもある意味何らかのノスタルジーなのかもしれない。