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「一首鑑賞」-48

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

48.おうどんに舌を焼かれて復讐のうどん博士は海原をゆく

(山中千瀬)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で吉田隼人が紹介していた歌です。

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 これは立ち止まらずにはいられないでしょう。うどん博士がうどんに舌を焼かれちゃうと。

 医者の間で話されているジョークを聞いたことがあるのですが、自分の専門にしている病気で死ぬ?病気にかかる?ことが多いんだそうです。まあー、産婦人科の男性医師とかもいるわけで、偶然そうだった時に言われる類のジョークでしょうが。

 

 うどん博士に関して言えば、一般人よりも圧倒的にうどんに触れる機会が多いに違いなく、舌を焼かれたことも一度や二度ではないに違いなく、こんなことでうどんに「復讐」するとはとても思えません。たくさんの犬の世話をしている犬のしつけのプロの人が犬におしっこかけられたからって犬に復讐するだろうか?ラーメン評論家がラーメンで舌をやけどしたからってラーメンに憤るだろうか?極めるには失敗はつきもので、プロといえども数をこなせば失敗はあり得るわけです。ではなぜ、そして何に対して「復讐」するのか?そしてなぜ「海原をゆく」のか?

 

 海を超える、ということを一般的に考えると「海外へ行く」という発想になりますが、うどん博士の場合研究は日本でやるのが圧倒的にはかどりそうです。もしかしたら、「舌を焼かない」他国の小麦粉麺であるパスタなどの研究に行くのかもしれん。もしくは、単に「瀬戸内海」などを超えて香川県へ向かうのかもしれん。あるいはうどん博士が外国の人で、研究のために日本に来るのかもしれん。というか、これはうどん博士=うどんであり、海原をゆく=茹でられている、という状況なのかも。熱々に茹でられて、次は別の誰かの舌を焼くのじゃ。

 

 ちなみにこの歌が収録されている歌集?連作?のタイトルは『さよならうどん博士』だそうなので、それを読むことによってこれらの疑問は解明されるのかもしれません。誰か知ってる人教えて下さい(笑)。

 鑑賞文の中では同作者の

 

永劫回帰のなかで何度も死ぬ犬が何度もはちみつを好きになる

 

という歌も紹介されており、なんとなく『100万回生きたねこ』(佐野洋子)を連想しましたが、100万回のねこの方は毎回飼い主が嫌いだったみたいですが何が好きだったのかはよく分かりませんね。しいて言えば自由だったのだろうか。

 

 ところで後日、井上法子が全く同じ歌を取り上げているのですが、

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それによれば、連作全てを読んでも「うどん博士」の正体ははっきりしないそうです。

 こういう、さっぱり意味が分からないんだけど何らかの世界観に裏打ちされていそうな作品作れる人ってすごいなといつも思います。どういう思考回路なんだろう。

 

 

ミイラ取りがミイラになって縛り首キャプテンキッド海原をゆく (yuifall)