「一首鑑賞」の注意書きです。
45.そのマスクいいね いんかんここ まいど ひかりをとどけたひとのせなか
(坂口涼太郎)
「マスク」という単語に引っかかってクリックしてみました。2020年5月にTwitter上で発表された短歌らしいです。まさに、コロナ禍の歌ですね。
2020年5月と言ったら、それこそ「アベノマスク」が配られる前くらいのマスクが全然なかった頃で、新しいウイルスについての知識も経験もなく、外国ではたくさんの人が亡くなり、日本は全国緊急事態宣言中で学校も休校になっているさなかでした。そんな中でこんなにコロナ禍を明るく詠んだ歌があったんだ、ってことにまずびっくりした。
こういう歌読むと、ほんとうに、敵わないなって思う。歌のテクニックとかそういうレベルじゃなく、人間としての格が違いすぎるなって。当時「人間力」という言葉が取りざたされましたが(そしてこの言葉好きじゃないしどういう意味だよって今でも若干納得がいかないものを感じるのですが、とはいえ)、自分「人間力」全然ないなーってこういう歌読むと思います。
多分、「そのマスク」の「マスク」は手作りの布マスクとかだったんじゃないかな。今では不織布マスクの方が感染防御に役立つことが分かっていますが、当時は使い捨てマスクが全然手に入らなかったから布やウレタンもよく使われていて、特に手芸上手な人はきれいな布で自作の布マスクを作っていた記憶があります。
「いんかんここ」と「まいど」は配達の人の台詞でしょうが、「そのマスクいいね」は自分が相手に言っているような気がします。あの頃、長距離ドライバーとか配達員さんみたいな外に出ざるを得ない仕事の人や、病院で働く人たち、それにその子供たちが差別に合っているという報道もたくさんあったけど、自分が家にいて生きていられるのはものを作る人、売る人、運んでくれる人のおかげで、その感謝の気持ちが「そのマスクいいね」の一言につまっているような気がする。
なんか読んでてふっと心が明るくなるような感じがしました。「ひかりをとどけてくれる短歌」ですね。
隠されたくちびるがもう慕わしい恋に素顔はいらないみたい (yuifall)