山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
塘健
雲に入り再びいづる一瞬を陽よ研がれつつわれにまむかへ
この人の歌、かっちりしててかっこいいです。解説には「端正な文語定型でくっきりと描かれた耽美的な世界観」とあり、本当に端正だなーと思いました。この人も塚本邦雄の弟子のようです。
「白鯨」とコンピューターに入力すただちに生死不明と応ふ
青空に葡萄の種を吐きゐしがすべて神話とならざるあはれ
こういう歌すごい好みです。ちょっと理由はうまく説明できないのですが…。好みのタイプの人の外見みたいな感じです(笑)。
今のコンピューターで「白鯨」をググると「生死不明」とは教えてくれませんが、スターバックスコーヒーの由来など色々雑学を得ることができました。へえー。この小説読んだことないんですよね。。薄ぼんやりと内容は知っていたけど、舞台が日本沖だとは知らんかった…。
夕焼けはにじむがごとしひとすぢの血脈をこの地にて断たむか
この人は故郷を離れて九州で農家をしていたらしく、この歌なんか見ると異郷にて「血脈を断つ」っていうゴシック的耽美な感じしますけど、他の歌では「吾が妻」という存在もいるっぽいので結婚はしてるのかな。
農夫すはだかなどと気負へば片雲をまとひて旅に死ねと吾が妻
なんて歌があります。農業をしながら「旅に死ね」って言われてしまうっていうのはどういうことなんだろう。その土地の上で土地の産んだものを糧にして暮らしながら、自分たちはこの土地のものではないと思っているというのは、何だか不思議な気がします。解説には
塘が土地を得て土着の民となってもなお自らを「旅人」と規定し、「旅に死す」ことを予感しているということである。故郷を喪失した男に、新たなる故郷を創出することなどできないということなのだろう。どこにいても、定住を果たしたとしても異人感覚をずっと抱いたまま生きていくしかないのだ。その異人感覚が、「土」ではなく「星」へのシンパシーを生み出しているのだろう。
とあり、星をモチーフにした歌も多く紹介されています。
真夜にして胸つき上ぐるもののあり永久に雪ふる星こそ故郷
わが領す星座その名も石榴座あまた子を残すべき娘に
「娘」が出てくる歌もあるけど、これは実際の娘というよりは何かのメタファーな感じがします。「土」ではなく「星」へのシンパシーを詠むのは、この「星」が空の遠い「星」ではなくて、自分の足元にある「星」だからなのかもしれない、と少し思いました。本当はどうなのか分からないですが…。
Biologyに「血」という字幕ぼくたちはゆがんだミートパイの肉塊 (yuifall)