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現代歌人ファイル その39-鳥海昭子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

鳥海昭子 

bokutachi.hatenadiary.jp

母に抱かれたおぼえない手に人形はつぶれるばかり抱かれている

 

 解説にこの人の経歴が紹介されているのですが、

 

鳥海は郷里山形から家出同然で上京し、児童養護施設に当初は洗濯婦として入り、定年まで保母を勤め上げたという経歴の持ち主である。

 

とあります。その一方で國學院大學文学部日本文学科卒業という大卒の肩書きも持っているので、働きながら大学に通って学位を取ったということなのかな。

 ここでは児童養護施設の子供やそこで働く自分の心境を詠った作品が多く紹介されていて、なんというか、圧倒されました。こういう人からしか出ない言葉ってありますよね。

 

青いくるみがどさっと落ちる八月の臓物みたいな故郷(ふるさと)がある

 

おまえ発・おまえ行きだよ ほかにない十五歳だよ凶器はよこせ

 

 故郷を詠んだ歌、西鉄バスジャック事件を詠んだ歌など、絶対に自分の中にはない言葉ばかりで、本当に、ただただ圧倒されました。喜多昭夫の「本歌取り」、パロディの歌も好きだけど、こういう絶対にパロディでは生まれてこない歌もすごく好きだと思います。

 「母に抱かれたおぼえない手」を持つ子、「盗癖の子」、「うしろしかみせなくなつた少年」、「親のない子」たちと生きるってどういうことなんだろうか。私には分からないし、分かったふりをするようなことはしません。ただ、こうして、歌という形でこの人の人生が残っていること、それにわずかでも触れられることに感謝するよりありません。

 

 

保育園、ミルク、ポテサラ、一人っ子、ぼくらは「かわいそう」に塗れる (yuifall)