山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
蝦名泰洋
女の子だものくじらを従えて泳いだように眠る日もある
全然知らなかった歌人が多いのですが、ここで出会えて嬉しいです。
この人は青森県出身、在住とのことです。青森っていうとどうしても寺山修司、太宰治のイメージがあるのですが、ふんわりしてます。歌集のタイトルも『イーハトーブ喪失』とのことで、(岩手ですけど)宮沢賢治を意識してるのかな。
やがて春空の梯子の真上では星替え師たちが星替えている
とか宮沢賢治っぽいですね。「ジョバンニ」とか出てくる歌もあります。解説にはこう書かれています。
これらの歌には幻想性があり、前衛短歌の影響を感じさせる。歌集タイトルの「イーハトーブ」とは言うまでもなく宮沢賢治が幻想した理想郷のことであり、理想郷が「喪失」したという状況が歌集全体の根本的なテーマとなっている。「星替え師」などはいかにも賢治的なフレーズである。「イーハトーブ」が東北の地にあることを想定されたように、これらの歌に描かれた世界はやや少女趣味的な幻想のように思えて実はかなり土着的である。そこが都市性を前面に押し出したニューウェーブ短歌とは大きく異なる点であり、地方都市に暮らす青年という自己像を明確にしている。
そうなんだ…。あくまで印象ですけど、確かに「ニューウェーブ短歌」ってナンセンスでスタイリッシュで怠そうで都会的な感じします。村上春樹的な(笑)?そして、宮沢賢治に象徴される幻想性って、なんていうか、現実とは明らかに違うのに、この人本当にこの世界に住んでるんだっていう感じします。正気な人がそう分かっててナンセンスなことを言ってるのと、現実でない場所に住んでいる人が大真面目にしゃべってるのとの違い、みたいな…。
それにしても「イーハトーブ喪失」ということは、それによって現実の世界へ戻って来ざるを得なくなったということだろうか。地方においてももはや幻想世界との共存は許されないのかもしれず、そこから松木秀などの「コンビニ」「イオン」に代表される地方詠に繋がっていくのかもしれないですね。
人と人理解し合えぬ……だとしてもだったとしてもやるせないよね
この歌はド直球ですね。解説には「もはや無防備ともいえるくらいの甘い文体でついてみせる」とあります。そうですね。この人の歌、名前が「泰洋」なので普通に男性の作品として読んでいたのですが、全然名前を見なかったら女性の作品と思うかもしれないなーってちょっと思ったりしました。
タワマンのベランダからもルベウスの瞳は見える 信じてもいい (yuifall)