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現代歌人ファイル その18-松野志保 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

野志保 

bokutachi.hatenadiary.jp

半欠けの氷砂糖を口うつす刹那互いの眼の中に棲む

 

 この一首だけ読むとビジュアル系的な世界観かなと思うのですが、「BL短歌」のようです。この人の回も解説がいいなって思いました。大田美和のフェミニズムといい、松野志保のBLといい、男性には触れにくいテーマな気がするのですが、まっすぐ受け止めて批判せず、バックグラウンドを探りながら鋭く内面に切り込んでいく姿勢が好きです。

 

好きな色は青と緑と言うぼくを裏切るように真夏の生理

 

もしぼくが男だったらためらわずに凭れた君の肩であろうか

 

 これらの歌の解説として、

 

 これらの歌はむしろトランスジェンダーの香りがするものであり、性の未決定期の終焉が綴られている。しかしここで松野が訴えかけようとしているのはセクシャルマイノリティの苦しみといったような社会的なものではない。思春期以前の性の未決定期という、時間的に閉じられた世界のなかにある恋愛の美しさである。

 

と書かれています。「少年」でも「少女」でもない頃、ってことなのかな。その精神を裏切って身体は女になっていくの。だからその前に死にたい、それが「JUNE」とか「やおい」の頃のBLだよね。私自身は「JUNE」とか萩尾望都とかリアルタイム世代ではないのですが、昔のいわゆるやおいものってメリバ多かったよね…。

 ですが、このくらいの時代って、男女の恋愛ものでもそういう雰囲気あったような気がします。10代で恋愛してセックスして、かろうじて妊娠出産まではあったとしても子育てみたいな生活の糠味噌くささと直面する前に死ぬっていう。今は逆にBLでもオメガバースとか、子育てBLとか、そういう意味で男同士である意味ある?って感じになっているような気がしないでもない。これってBLが大衆化したからかな?時代?それともそもそもそういうのを読んでる世代が高齢化してるから?今でも思春期くらいの子たちにはバドエン系統の話刺さるんでしょうか。

 逆に、こういう時代にこの人はどういう歌を読むんだろう。1973年生まれということは、47歳くらいですよね。これらの歌を作った頃と気持ちは変わっているんだろうか。それとも、作歌の上では同じスタイルを貫くんだろうか。

 

 しかし「真夏の生理」の歌見て思い出したのですが、レイチェル・ギーザという、妻と息子と暮らしているLGBTQ当事者の女性が書いた『BOYS 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』という本で、

 

 実際のところ、男の子と女の子が何に引き付けられるかというのは、おおむね生来の好みではなく社会化や巧みなマーケティングの結果である。例えば、女の子に人気のピンク。ピンクはいつの時代もプリンセスの色だったわけではなく、一世紀ほど遡れば男性の色と考えられていた。20世紀初期までは、ピンクは活力と強さと権力の象徴で、若い男性がよく身につけた色だ。一方、ブルーはどちらかというと女の子にふさわしい色とされていた。繊細で上品で、聖母マリアのガウンの色でもあるブルーは純潔の象徴だった。

 

と書かれています。この本とても面白いです。男の子も女の子も活躍する時代を作るには、男の子だって「男らしく」なくていい、誰もが「自分らしく」いればいい、というメッセージを感じます。

 この歌については、女の子だって「青と緑」が好きでもいいんだよ、と思う一方で、「生理」の「赤」のイメージと対比されているというのも理解できるしなー。しかし緑の血で卵を口から産むピッコロを連想したのは私だけではあるまい(笑)。

 

 最後にこう解説されています。

 

 しかし松野の歌は決して閉じた美学に支配された世界ではない。「やおい」の美学もまた国家や社会のなかに囚われざるをえないという視座をも持っている。パレスチナを舞台にレジスタンス少年二人のドラマを描いたとおぼしき連作「二重夏時間」や「国ひとつ潰えゆく夏」といった表現には、国家的・社会的規範といったものが性的モラルと同様、「美」の前に乗り越えられてゆくべきものなのだという強い批判精神が込められているのである。

 

 こういうスピリットってよしながふみっぽいな、なんか。この人は東大文学部卒のようなので、インテリの人がBLを極めるとそっちの方向へ行くのかなぁー、とかアホ極まりないことを考えました(笑)。

 

 でも私は腐女子ですけど、いわゆる「耽美」みたいなのってあんまりこうぐっとこないんだよな…。森茉莉とか読んだけど刺さらなかったもん。スパダリ溺愛攻×健気美少年受(でも流されてセックスする)みたいなBLってダメなんだよな…。ハイスペックで強くてセックスに能動的なインテリ受が好き(攻は明るい天然とか変人とか、思考がトレースできない人が好き)なので、多分、男でも女でもない、って存在への憧れなのかなって自分では思ってます。「思春期以前」ではなくて、大人の。

 

 

血にぬめる剣の束をまた掴む「じゃあ、後でな」ときみが言うから (yuifall)

 

 

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