北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
林和清③
かつてなにかを愛したといふ記憶だけエヴィアンは暗い石の味する
この歌は説明するというよりもすっと入り込んでくる感じです。ヨーロッパのどこかで、日陰にずっと置かれている石(っていうか、石垣の一部みたいなわりと大きいやつ)があって、水が滴っているかちょろちょろ流れているかで常に濡れていて、この石はおそらく何百年、何千年もここにあって、人の愛や死を見守ってきたんだろうな、っていうイメージです。
そして「エヴィアンは暗い石の味」に納得しすぎたのですが、ググってみたらエヴィアンの硬水具合はまだ序の口でした。コントレックスがやばかったです。1000超えてました。戦闘力みたいですね(笑)。
コントレックスの産地はフランスのヴォージュ県コントレクセヴィルらしいのですが、人が60%水分でできていることから考えると、そこに住む人たちと軟水を飲んで暮らしている我々とでは体組成が異なるのではないかとすら思えてきますね。「同じ釜の飯を食う」という言葉を連想しますね。生物は食べたものからできていると…。コントレックス、ちょっと飲んでみたくなってきたな…。
(衛星モバイルフォン、最大手はこの国の企業。)
てのひらのNOKIAで呼び出すうしなつた月星、闇空、夜のきぬずれ
アンソロジーなので色々な歌が詰めあわされているのですが、その中に旅行詠や師である塚本邦雄の病床を見舞う歌などがありました。引用歌の舞台は北欧で、NOKIAはフィンランドの会社です。あー、そういえば昔外国行くとみんなNOKIA持ってたなーとか思い出した。いや、BlackBerryの人もいたような…。
北欧の夜って季節によってだいぶ印象が変わりそうです。「闇空」なんだから、夏ではないんだろう。「夜のきぬずれ」ってなんだろうな。オーロラなのかな。
(氷河は崩れつづける。国土は隆起しつづける。)
もう誰も生まれない惑星(ほし)になるだらう澄みきつたこの朝を最後に
この歌もちょっと理由はよく分からないのですが好きです。もしかしたら地球温暖化とかそういう関連の社会詠なのかな、とも思ったのですが、一方で一種の不条理短歌として石川美南の
息を吞むほど夕焼けでその日から誰も電話に出なくなりたり
を連想しました。まあ、林和清の歌の方は全滅感がありますけど、石川美南の方は人は生存しているにも関わらず「電話に出なく」なるという点で意味不明度がより高いですね。
生まれ育った京都の歌でも過去や未来が重ねあわされていましたが、旅行詠でもそれは変わらないんだなと思いました。一つの場所、一人の自分に悠久の時間が重なっているんですね。それでも、「悟り」という感じではなく、(今回は引用しませんでしたが)師である塚本邦雄の死についての一連の歌はとても苦しくて、大伴家持や光源氏のように、そこにいなくても時空を超えて会える、という歌い方はしていません。だからこそ、そのほかの歌についても、今本当にこの人の感じていること、ものの見方が詠われているんだな、と感じました。
星の読み方も知らずに地球儀の軸傾ける情強たちは (yuifall)
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